EBMはもう古い?GDMTって何のこと?

EBM(Evidence-Based Medicine)とは、皆さんご存じ**「根拠に基づく医療」**です。

 

心不全領域では、長らく「クリニカルシナリオ(Clinical Scenario:CS)」という考え方が使用され、臨床でも広く浸透していました。しかし、2025年改訂版 心不全診療ガイドラインではクリニカルシナリオによる分類は採用されていません。もともとクリニカルシナリオについては、エビデンスが十分ではないという指摘もありました。

 

現在の医療において、EBMは非常に重要です。根拠を知らずに「昔からこうしているから」「経験的に効きそうだから」という理由だけで医療を行うわけにはいきません。

では、最近よく耳にする**GDMT(Guideline-Directed Medical Therapy)**とは何でしょうか?

日本語にするのが少し難しい言葉ですが、簡単に言えば、診療ガイドラインで推奨されている薬物治療です。

 

心不全を例に考えてみましょう。

心不全治療といえば、ひと昔前はジギタリスが代表的な薬剤でした。現在は使用する場面がかなり限られていますが、強心作用を有し、心不全症状の改善などを目的として使用されてきました。

しかし、ジギタリスには心不全患者の長期生命予後を改善する効果は示されていません。

一方、一見すると強心薬とは正反対に見えるβ遮断薬は、HFrEF(収縮不全型の心不全)において生命予後を改善することが示され、現在の心不全治療の中心的な薬剤の一つとなっています。

心拍数を低下させ、交感神経の過剰な作用を抑えることで心筋の負担を軽減し、長期的に心臓を守るわけです。

 

フロセミドも分かりやすい例です。

フロセミドを投与すれば尿量が増え、うっ血が改善し、呼吸困難や浮腫の改善が期待できます。そのため、うっ血のある心不全患者には重要な薬剤です。

しかし、フロセミドそのものに長期生命予後を改善する効果が確立しているわけではありません。

つまり、「効く」ということと、「長期的な転帰を改善する」ということは同じではないということです。

 

ここで登場するのが、**Fantastic Four(ファンタスティック・フォー)**です。

左室駆出率が低下した心不全、つまり**HFrEF(Heart Failure with reduced Ejection Fraction)**では、現在、主に次の4つの薬剤群が重要視されています。

・ACE阻害薬/ARB/ARNI(レニン・アンジオテンシン系を抑制薬)
・β遮断薬(交感神経系の過剰な作用を抑制)
・MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗:カリウム保持性利尿薬)
・SGLT2阻害薬(ブドウ糖尿中排泄)

これらは単に「血圧を下げる」「心拍数を下げる」「尿を出す」といった目の前の作用だけで選ばれているわけではありません。

 

死亡や心不全入院などの重要なアウトカムを改善することが臨床試験で示され、それをもとにガイドラインで推奨されていることが重要なのです。これがGDMTを理解するうえでのポイントです。

 

では、EBMとGDMTは何が違うのでしょうか?

 

私はシンプルに、

 

EBM=選択根拠
GDMT=ガイドライン推奨

 

と考えると理解しやすいと思います。

 

ただし、EBMとは単に「エビデンスのある治療を行うこと」ではありません。

研究によるエビデンスだけでなく、医療者の臨床経験、患者さんの状態や価値観なども踏まえて、目の前の患者さんにとって何が適切なのかを判断することがEBMです。

そして、ガイドラインに推奨されているからといって、すべての患者さんに同じ治療ができるわけでもありません。

血圧、腎機能、電解質、年齢、併存疾患、患者さんの希望などによって、選択すべき治療は変わります。

ですから、

 

「この治療にはどのような根拠があるのか?」というEBMの視点。

 

そして、

 

「現在のガイドラインでは、何が推奨されているのか?」というGDMTの視点。

 

この両方の視点を持つことが重要です。

根拠を知り、ガイドラインの推奨を知ったうえで、目の前の患者さんにとっての最適解を考える。

それが我々医療従事者に求められていることではないでしょうか。

 

 

 

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